2019年11月1日
精神科救急が整っていない

患者さんの容態が悪化して救急入院が必要となる場合があります。
病院がすぐに受け入れてくれたら助かるのですが、そうもいきません。

また、夜間や休日に具合が悪くなった方も受診先に困ります。

近隣、というより県全体で精神科救急が整備されていません

原則、県は精神科病床を持っていることが望ましいのですが、過疎県では、病床がないことがあります。

愛媛県では、20年くらい前は、ある県立病院に病床がありました。
総合病院の中の1病棟です。

こうした県の病床を持った病院が精神科救急を担うことを期待されていましたが、うまくいきませんでした。

 

その理由として、

1 救急を担うには、病床数が足りない
 
 ある程度の病床や複数の病棟がないと、様々な病状に対応できないケースが増えます。

2 救急を担う医師のマンパワーが足りない

 救急は、1件の入院にかなりの時間をとられます。2〜3時間くらいは当たり前です。
 その間、最低1人の医師がそこに釘付けされます。

 だから、たとえ日中でも、外来をしている医師が入院を行うと、一般の外来診療がストップします。
 ですから、そこに勤務する医師は複数必要です。

 

愛媛県では、病床を持っているのが総合病院で、病棟も少なかったので、そこに勤務する医師は、2人〜3人でした。
しかし、さきほど述べたように救急を担うには、病棟も人も足りません。

少なくとも3つの病棟を持ち、最低でも4〜5人の医師(精神科医)が必要です。
しかも、医療保護入院、措置入院という、のっぴきならない状況で強制的な入院を引き受けざるを得ない病院は、精神保健指定医(以下、指定医と略す)が存在することが必須です。
しかし、指定医も1人では、マンパワー不足です。

学会などで出張した場合は、入院を引き受けることができません。
ですから、指定医も2人以上必要です。

病床数の少ない病院では、3人までの医師しかおくことができません。
財政的な事情と人手不足の要因が重なります。

さらに、3人の医師の内、2名以上の指定医を配置することは、人材の配置として、困難です。

ですから、愛媛県の救急医療の整備は、研修医制度によってもたらされた地方の医師不足も加味して、頓挫してしまいました。

県立病院での病床の受け入れは困難となり、外来だけになりました。
さらに、医師不足が深刻となり、外来もなくなってしまいました。

 

研修医制度が始まって、割を食ったのは、地方の公立病院でした。

それまでは、医局人事で派遣していたところに人員不足で派遣ができなくなりました。
そのターゲットになったのが、県立などの公立病院ということです。

ところで、外部の人は、なぜ、公立病院から人(医師)が消え去ったのか、理解できないでしょう。
内部事情を知らないから、当然のことです。

 

これにも、いくつかの理由があります。

1 公立病院に求められる要求が高く、志のある医師しか、勤務を遂行することができません。

 民間病院より特殊なことや無理な要求をつきつけられることが多くなります。

2 公立病院は、雇用者は、公務員です。雇用主は、地方自治体です。

公立病院では、民間病院と比べて、コメディカル(医師以外の医療従事者:看護師、薬剤師、検査技師、放射線技師など)が働いてくれません。
民間病院では、たいていは、医師のトップが雇用主なので、医師に反感を買うと、出世や給料に響きます。

公務員だと、少々働かなくても首になりません。
また、一生懸命リスクのある仕事をするより、無難な仕事をする方が、ストレスも少ない上に失敗による汚点がつきにくくなります。

2 志のある医師も助けてくれる仲間がいなければ、疲弊してやっていけなくなります。

 平成のバブルの時代に、「24時間働けますか?」というCMがヒットしました。
 
 あの時代は、イケイケどんどんでした。

 しかし、実際のところ、24時間、365日働くことはできませんでした。
 なるべく多くの同士が必要となります。
 さらに、上記の状況にあるため、民間病院より多くの人手が必要です。

3 自分の専門外の他科の治療まで要求されると、訴訟リスクも高くなります。

 このままではやっていけないという危機感が、やがて、絶望感に変わっていきます。
 そうして、病院を去ることになるのです。

 

 一方、民間の病院は、医師の確保が命綱になるため、度重なる医局への訪問のみならず、「研究費」を献上します。

 研究費(科研費)をもらった医局は、お返しをしなければ、収まりがつきにくくなります。
 お返しとは、医師の派遣のことです。

 もし、医師の派遣を途絶えさせたために、ある民間病院が潰れた場合は、経営者一族から、末代までたたられるでしょう。

 さらに、雇用される医師側にとって、公立病院で勤務することは、役割が多いけれど、反対に立場が弱く、「やってられない」病院になることが多いのです。

 こうした事情が、全国的に公立病院から医師が引き上げる要因となりました。

 

 さて、こうした公立病院離れは、全国的に共通していましたが、県によって、救急の受け入れが異なるという実態もあります。

 医師数が比較的多い岡山県では、200〜250症の病床を持つ県立岡山病院が精神科救急を引き受けています

 当時(20年くらい前)の県立岡山病院は、岡山大学病院とは目と鼻の先にあるくらい地理的に近い場所にありましたが、緊急入院は、大学病院ではなく、県立病院で行われていました。

 岡山県では一番西にある笠岡市でも精神科の救急医療は、当地ではなく、岡山市内にある県立病院で行われていました。

 現在、当時の県立病院は、「岡山県精神科医療センター」と名を変えて活動しています。

 

 トップ層にエネルギーの高い医師が存在します。
 学生の前で講演をして、やる気を奮い立たせる話ができる医師がいます。
 いろいろな症例に挑戦して、盛んに講演発表をしている医師もいます。

アルコール依存症のみならず、薬物依存やギャンブル依存症に対応できる医療機関は、ほとんどありません。

そうしたこともあって、若い研修医を惹きつけ、救急のみならず、多岐にわたる疾患に対応しています。
 人員も大学病院に負けないくらいの医師を擁しています。

 ただし、こういうエリアは特殊で、過疎地域で同じことを行うことは、人員的に困難なのです。