2014年8月23日
天国と地獄に最も近い場所

山登りは、基本的にしないといっていい身だが、山を見るのは好きである。

学生時代、立山の景観に驚かされた。
「ここは、日本ではない」と思った。

日本であって、日本では見られないような地は、
信州、沖縄、北海道の景観だろう。

実は、私は、生まれてからこの方、沖縄に訪れたことがない。
北海道ですら、医局旅行で一度、札幌に滞在したのみだ。

そんな私が4度目の信州へ行った。

一度目は、高校での修学旅行。
後の2回は、年がずれて、大学生時代。

3回行って、3回ともよかった。
立山黒部アルペンルートは、登山家ではない身としては、「ここでしか得られない景観」だと思う。

学生時代は個人旅行なので、一度、気が向いて、立山連峰の上に向かって歩いて行ったことがある。
その日、到着した時、立山は雲に覆われ、残念に感じた。
しかし周囲を見渡すと、上に向けて続々と歩いて行く人の列が見えているではないか。
それは、まるで、地獄から這い上がっていく亡者の連なりのようでもあった。

途中、夏なのに雪が残っている場所もあり、少しバランスを崩すと、本当に奈落の底に突き落とされると実感した。

運がいいことに、登山中に雲が薄くなり、次第に立山は最高峰を目の前に露わにした。
「目の前の雲が取り払われるよう」とは、まさにこのことだと思った。

ある程度まで登ると、山小屋があって、そこから下を見下ろせる場所があった。
まだ上を目指す者もあったが、山の知識がなく、装備もない私たちは、尾根に小一時間ほど座って景観を楽しんでから引き返した。

座っている場所は、平地であるが、その平地とは、幅が2~3mほどで、前方に、腰を浮かしてうっかりすると、自身の体がサイコロのように転がっていくのではないかと思われるほどの急斜面である。
私は、昔思っていたほどの高所恐怖症ではなかったのかもしれない。

宇宙飛行は別として、高度1万メートルくらいまでは旅客機で滞在することができる。
しかし、自分の足を地に着けておれる場所として、最も高いのは、「山」である。
天国に最も近い場所である。

あの地は、あこがれの地であったが、ずいぶんとご無沙汰していた。
今回、久しぶりに再訪する計画を立てたのであった。