インターネットの活用で、医学知識のない方でも、薬の作用や副作用、病気について調べることができます。
調べている方は、臨床的な症状や効果を中心に検索するため、その元になる基礎医学については知らないことが大半です。
今回は、腎臓と糖尿病との関係について、簡単に説明します。
以前、話のついでに患者さんに説明したとき、案外驚かれていたので、意外にこちらも驚きました。
こういう話は、忙しい診療の時間では行えないため、ここに掲載することにしました。
・糖尿病のI型とII型
現在では当たり前にみられるようになった糖尿病です。
しかし、人類の歴史の中では、100年以上前に、糖尿病に罹患する人は、わずかでした。
I型糖尿病は、インシュリンを分泌する細胞が障害されて引き起こされるものです。
インシュリンを産生する細胞は、膵臓の中のランゲルハンス島にあり、β細胞と呼ばれています。
若い人を中心に発症し、命に危険をもたらします。
昔は、このI型糖尿病を発症すると、治療できず、多くの命がなくなったことでしょう。
現在は、インシュリンを注射することによって、命が救われています。
現在、一般的にいう糖尿病は、ほとんどがⅡ型糖尿病です。
遺伝子的な要因に加えて、体にあった食事や運動のコントロールができていないために起こるものです。
いわゆる成人病とも大きく関係しています。
・昔の糖尿病の診断と治療について
100年以上前には、糖尿を測定する器機も治療薬もありませんでした。
王様に仕える侍医が、王様のオシッコをなめて、「尿が甘いから、気を付けてください」、「今日の尿は、大丈夫です」と尿に排出される甘さで糖尿の判断をしていました。
(ビックリするでしょう?)
腹一杯食べることができない庶民は、糖尿病になる余裕がなかったのです。
糖尿病になるのは、贅沢な食事をとる、王族、貴族、富裕商人など限られた人だけでした。
治療薬がありませんから、食事制限をするしかありません。
しかし、お金のある特権階級の消費層は、「うまいものを食わずして、何がおもしろいのか」という風潮がありました。
美食を楽しむために、腹が太ったら、バケツに無理やり吐いて、また別の食べ物を口にしていました。
従って、糖尿病は、特権階級の人がかかる病気として存在しました。
日本では、平安時代に栄えた貴族が、干物と濁り酒を毎日たしなみ、成人病にて若くして亡くなる人が多数いました。
江戸時代で支配階級にいた上級武士は、戦(いくさ)というものを意識していた故か、西洋貴族より糖尿病になる率は少なかったと考えられます。
現在にも続いている和食の懐石料理は、最初に野菜や酢の物を提供して、いろいろな品目の食物をとって、最後にご飯にたどり着くのは、血糖値を抑える方法として理にかなっています。
おいしさの中にも健康への配慮のある和食は、経験則に則った知恵を持っているようです。
・腎臓の働きについて
腎臓は、体の中で必要のない物質を尿として排出する役割を持っています。
腎臓は、2つありますが、小さな臓器です。
それでも、体に循環する血液の20%ほどが腎臓に流れ込みます。
腎臓に入った血液は、100万個ほどもあるとされる、微細な「糸球体」という組織で、血液を濾過します。
その量は、1日に170ℓに及びます。
(小さなお風呂1杯分くらいの量です)
糸球体で濾過された血液は、水分、塩分、蛋白、糖などを再吸収して、生体に必要なものを確保します。
濾過された血液の99%を再吸収しますから、排泄される尿は、1.5ℓくらいになります。
(摂取した水分は汗などでも排出されますから、1.7ℓより少なくなります)
・再吸収できなかった糖
腎臓で濾過されて、再吸収できなくなった糖は、尿中に出ます。
これが、尿糖です。
尿に糖が出る原因は、ざっくり言うと、2つです。
1 腎炎などで、腎臓の機能が低下している
2 血糖値が高くて、再吸収できないレベルだった
1の場合は、腎不全の可能性があります。
2の場合は、糖尿病の可能性があります。
⇒ 腎臓が正常な働きをしている場合でも、血糖値が180mg/dlを超えると、腎臓は、糖を再吸収することができず、尿に糖が出てしまいます。
これが、糖尿病です。
ですから、随時(いつ測っても)血糖値が180mg/dlを超えると、それだけで、糖尿病の可能性が濃厚となります。
・糖尿病になると、血管の硬化もみられる
腎臓で処理できなくなった糖は、排出されるだけではありません。
糖尿病によって、腎臓の機能は、さらに負荷がかかります。
本来、腎臓は、左右あり、余裕を持って処理しているのですが、腎臓の糸球体が死滅していくと、残りの糸球体に負荷がかかります。
負荷のかかった糸球体に関わる動脈は、硬化して圧がかかります。
腎機能が半分に落ちた時には、残存している糸球体は、1/6ほどに減っていると推測されています。
腎臓は、ギリギリまで、奮闘しているのです。
ただ、残念なことに、糖尿病に罹患している方は、動脈硬化によって、腎不全に陥るリスクを抱えています。
実際、透析している人の約半数は、糖尿病に罹患しています。
糖尿病が腎臓病を誘発する大きな要因となっているのです。
・人類は、血糖を下げるシステムをうまく構築できていない
動物は、満腹になると、食事をとるのをやめます。
ライオンでも、獲物を確保して、満足している時は、他の動物に襲いかかりませんから、その気配を察知している草食動物は、ライオンの目の前を平然と通り過ぎます。
動物の世界は、飢餓に対処する機能を複数備えていますが、飽食の危機を乗り切るほど生体が進化している動物は見当たりません。
人類も糖尿病に対応するインシュリン以外の有効なホルモンを備えているミュータントは、今のところ見当たりません。
人類が、糖尿病によって滅ぶ可能性を抑制する遺伝子システムを備えた進化をするためには、早くて数万年、あるいは、100万年ほど必要とするかもしれません。
ただ、そこまでホモサピエンス(現在の人類)が生存している確証もありません。
・人類の行方?
増えすぎた人類は、世界の資源を貪り、大きな環境の変化、あるいは、大規模な戦争によって滅び去るかもしれません。
食糧問題は、思ったより早い近未来に来ると予想されます。
人口では、いずれインドが世界で一番多い国になるかもしれません。
しかし、そのインドで近年、地下水の減少が確認されています。
地下水の減少が何をもたらすのでしょうか?
それは、農業によってもたらされる穀物の減少です。
穀物が取れないと、家畜を飼育することができなくなります。
つまり、肉食もできなくなるわけです。
穀物も肉類も食べられないとなると、深刻な食糧問題に瀕します。
インドでは、ヒマラヤ山脈から流れ込んでくる、「聖なるガンジス川」の水を4億人の飲み水にしようと計画していました。
しかしながら、そのガンジス川は、汚染の危機にさらされています。
下水処理されていない汚物の放出、工場からの廃棄物、遺体の埋葬(川への放流)、ゴミの廃棄などにより、川の水は汚染されています。
それでも、人は、その川で沐浴し、その水を飲料として使用しています。
私の次の世代がみるであろう戦争は、経済戦争ではなく、食料調達戦争となるかもしれません。
そして、アラブの砂漠のみならず、地球上の多くの場所で、水が金と同じくらい価値を持つ時代がやってくるかもしれません。