2019年11月3日
精神科救急2 ―精神病への強制入院を必要とする場合―

病変が悪化して、救急で受診したい場合は、受け入れ先を探すのが大変です。
特に入院できる病院を確保することに労力がかかります

夜間や休日の場合は、よほどのことがないと我慢することになります。

 

・暴力や器物破損があった
・家でして行方不明になり、安否が分からない
・自傷行為や自殺の危険性を強く感じる
・近隣の人に対し、叫ぶ、脅すなど見過ごせないほど攻撃的となる
・精神的不調により、食事や睡眠がとれなく、衰弱して、危険な状態にある

このような場合は、すばやい治療介入が必要となります。

また、本人保護ならびに他人の保護のために入院が必要なケースも多くなります。

しかし、上記のようなケースでは、医療機関を見つけるどころか、医療機関に連れて行くことさえできません

 

そのような場合、どうしたらいいのでしょうか?

 

まず、暴力など周囲への危険を及ぼす場合は、警察に連絡することが一般的です。
緊急対処として、危険な事態を回避あるいは、逃れなければなりません。

そして、次にどうするか?

警察を呼んだ後、警察官が、

「この人は精神疾患があり、放置できない状態だから、入院治療を行った方がいい」と判断して、動いてくれる

……と期待するのは、やめておきましょう。

実際にそういうケースもありますが、その考えに至らない、あるいは、次につながる行動に移すことができないことが多々あります。

ですから、ですから、次のケースとして、精神疾患による任意でない(同意のない)入院も考慮しましょう。

 

それは、以下の法律に基づきます。

【精神保健及び精神障害者福祉に関する法律】

第24条(警察官の通報)

警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、もよりの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。

上記の法律は存在しますが、それを知っている警察官は、一部です。
また、それを実行してくれるとは限りません。

ですから、そうした知識を知っておき、警察に依頼することが大切です。

 

では、警察は、どこに連絡するのでしょうか?

法には、都道府県知事に通報とあります。
とは言え、実際に知事に連絡するわけではありません。

実務を担当する県職員です。

その実務を司る所が、
「保健所」

保健所の精神保健の係に連絡してもらうのが適切です。
まずは、もよりの保健所の電話番号を調べることができたら、そこに連絡し、担当の人につないでもらいます。

電話でつなぐと言っても、担当職員が24時間勤務しているわけではありません。
こういう危機介入する際の担当職員が当番制で待機しています
保健所から、担当係官を呼んでもらうという形になります。

ですから、電話して、係官に連絡がつくまで少々時間がかかります。
それは、仕方がないと思ってください。
以前、述べたように精神科救急は、身体の救急ほど整備されていないのです

 

さて、急な事態で、入院治療が必要と思われる場合は、警察に連絡して、警察から、あるいは、家族から、保健所に連絡するという手はずを述べました。

その後、保健所の職員がかけつけ、状況をみます。
そして、担当係は、家族からの要請があり、かつ係官も入院を依頼した方がよいと考えた場合、地域の入院病床を持った病院に問い合わせます

そして、診察をしてくれる病院に患者、家族とともに同伴してくれます
患者さんが暴れたり、受診を拒否したりした場合は、警察官にも同行してもらいます。
(穏やかになって県職員に任せられる場合は、警察は引き上げます)

 

ここで、一般の人は知らない規則があります。
長い文章なので、読める人だけ解釈を考えてください。

第34条(医療保護入院等のための移送)

都道府県知事は、その指定する指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者であつて当該精神障害のために第二十二条の三の規定による入院が行われる状態にないと判定されたものにつき、保護者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を第三十三条第一項の規定による入院をさせるため第三十三条の四第一項に規定する精神病院に移送することができる。

2 都道府県知事は、前項に規定する者の保護者について第二十条第二項第四号の規定による家庭裁判所の選任を要し、かつ、当該選任がされていない場合において、その者の扶養義務者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を第三十三条第二項の規定による入院をさせるため第三十三条の四第一項に規定する精神病院に移送することができる。

3 都道府県知事は、急速を要し、保護者(前項に規定する場合にあつては、その者の扶養義務者)の同意を得ることができない場合において、その指定する指定医の診察の結果、その者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者であつて当該精神障害のために第二十二条の三の規定による入院が行われる状態にないと判定されたときは、本人の同意がなくてもその者を第三十三条の四第一項の規定による入院をさせるため同項に規定する精神病院に移送することができる。

4 第二十九条の二の二第二項及び第三項の規定は、前三項の規定による移送を行う場合について準用する。

 

移送とは、患者さんを病院に連れて行くということです。
そして、その移送には決まりがあるということです。

入院させてくれる病院が、入院のために迎えに来てくれると思われている方がおられます。
それは、見当違いです。

 

上記の法令は、

「都道府県知事は、…(中略)…移送することができる」

という部分が肝(きも)なのです。

そのこころは、

「病院の職員が患者を連行してはいけない」

ということが格心です。

昔は、家族に依頼されて、病院職員が数人訪れて、病院に連れて行くということがあったわけです。

移送は、状況によっては、強制的な連行です。
これを行うことができるのは、県知事、つまりは、その代理人である県職員に限る、ということを法的に定めたことを条文にしているわけです。

(法律って、分かりにくく書かれているでしょう?)

この法律に基づいて、保健所の職員が同伴するのです。

 

それから、病院の外来受診になります。
外来受診で入院になるかどうかが決定されます。
外来なしで、入院ということはありません。

ただし、こういう救急の場合、外来の診察は、必ずしも診察室で行われるとは限りません。
車から降りない方は、外に停めてある車まで医師が出向いて、話をすることもあります。

また、突然、逃げ出すこともありますから、外で話を聞いて説得することもあります。

入院治療については、患者さんの同意があれば、それに沿う形の任意入院を行います。

しかし、入院が必要であると医師が判断したにもかかわらず、患者さんが入院を拒否し、家族が患者の入院を希望した時は、精神保健指定医(以下、指定医と略す)の判断にて、医療保護入院となります。

 

患者の病状がとても悪く、自傷他害のおそれが強いと判断された場合は、2名の指定医の判断により、措置入院となります。

ただし、2名の指定医は、異なる病院から選定します。
従って、2カ所の病院を受診する必要があります。
また、県職員の立ち会いも必要となります。

措置入院は、県知事からの命令で、強制力の高いものですから、滅多にありません。
措置入院は、強制入院である代わりに、医療費は、県が負担します。

 

その他、大阪の池田小学校で小学生を殺害した、宅間被告のような重大事件の場合は、措置入院より責任が重いと判断し、別枠で審議します。

以上、精神科救急入院の大まかな流れをまとめてみましょう。

 

病状の悪化時

⇒ 警察への連絡
⇒ 保健所への連絡
⇒ 保健所の係官とともに病院への同行
⇒ 精神保健指定医の診察
⇒ 入院あるいは、外来治療

となります。

 

また、患者さんが、救急車を呼んで救急搬送されたけれど、身体的な異常はなく、精神的疾患が疑われる場合、精神科に紹介され、そこで入院になることがあります。

特に、数少ない精神科病棟を有する総合病院で、こういうケースがあります。

めったにありませんが、外来しかないクリニックにもかかりつけの患者さんが救急車で搬送されて診察することがあります。

 

※トリビア

昔、精神疾患患者は、黄色い救急車で運ばれるという、噂をまことしやかに語った人がいました。

そういう救急車はありません。
普通の救急車で運ばれてきます。