2019年8月12日
厚生労働省は、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬と抗不安薬の処方を減らそうとしている

改訂ごとに厳しくなっている投薬制限

厚生労働省の向精神薬の処方が、近年厳しさを増しています。

多剤併用療法を避け、なるべくシンプルな処方に近づけるように勧めています。
それに伴い、厚生労働省の定める保険適応範囲も制限がかかっています。

特に厳しい制限がしかれている、睡眠薬と抗不安薬

その中でも、睡眠薬と抗不安薬は、待ったなしの制限がかかりました。
現在は、厚生労働省が認定する、睡眠薬と抗不安薬は、合計3種類までしか、健康保険がきかないことになっています。

 前の改訂では、睡眠薬は2剤まで、抗不安薬も2剤までで、合計4種類の処方が可能でした。
 一度に薬を減らすことは、患者さんにとって、苦痛であることから、徐々に減らすよう、指導しているものと思われます。

ベンゾジアゼピン大国、日本

 日本では、睡眠薬や抗不安薬が日常的に使われています。

 そして、それらの大半は、ベンゾジアゼピン系という薬剤です。

 日常的に患者さんとお話する時、睡眠薬のことを「睡眠導入剤」と呼ばれる方が多いことに気づきます。

 一方、私どもは、「睡眠導入剤」という言葉は、使いません。
 睡眠薬の分類には、いくつかありますが、一般的には、

 短時間型、中時間型、超時間型 という風に分類しています。

 患者さんが言われる、導入剤とは、いわゆる、寝つきのよい薬のことを言うのでしょうか?あるいは、ご自分のとって、睡眠を取りやすい薬のことを指していることが多いようです。

 いずれにしても、患者さんの言われる、睡眠導入剤は、そのほとんどがベンゾジアゼピン系の薬剤です。

 また、抗不安薬である、デパス(一般名:エチゾラム)を睡眠薬として服用されておられる方も多くおられます。
 このデパスもベンゾジアゼピン系の薬剤であります。

 実の所、ベンゾジアゼピン系の薬剤は、GABA受容体に作用して、神経興奮を抑制することで、睡眠に入りやすくなったり、不安を軽減したりするのです。

 ですから、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬と抗不安薬は、いくらかの眠気を誘う作用と不安を軽減する作用があります。
 実のところ、同系列の薬剤で、より睡眠を促す薬を睡眠薬として使用し、眠気の軽い薬の中で、不安を抑える作用の強い薬を抗不安薬として、分離しているにすぎません。

 従って、睡眠薬にも抗不安薬にも、程度の違いはあれ、双方の効き目を持っているのです。

 私は、患者さんへの説明用に持っている薬剤リストで、「デパス」という薬が、抗不安薬の項目に掲載されているとともに、睡眠薬の欄にも載っていることを示します。

厚生労働省が、ベンゾジアゼピン系の薬剤を制限する理由

 ベンゾジアゼピン系の薬剤は、認知機能を落とす、依存性があるとして、厚生労働省は、制限をかけています。
 服用していくと、やめられなくなっていくケースもままあります。

 これが、どのくらい悪影響を与えるものか、という議論は難しいところです。ベンゾジアゼピン系の薬剤を50年間以上も服用していても、特に悪影響もなく、健やかに過ごされている方もおられます。

 ただ、用量が増えていく、依存性が増していく方には注意する必要があります。

 ベンゾジアゼピン系の薬剤の中でも、「デパス」は、効果が高いけれども、作用時間が短いため、用量が増えていって、やめるどころか、減らすことができない方が多くおられます。
 こうした事態は、厚生労働省だけでなく、私自身も憂慮します。

 そうした事態を減らす手立てとして、薬剤の投与制限を設けているのです。

厚生労働省が、精神科、心療内科に対して、薬剤制限をした結果、どうなったか?

 確かに、精神科、心療内科での多剤併用は減少しました。

 それでも、ベンゾジアゼピン系の薬剤の処方用は、大きく減りません。
 その結果をようやく厚生労働省も把握したようです。

 実の所、ベンゾジアゼピン系の薬剤の処方は、精神科系の制限で制御できないことが分かりました。
 現実として、これらの薬剤の8割は、内科系で処方されているのです。

 そのため、前回の診療報酬改訂では、診療科に関わらず、ベンゾジアゼピン系の薬剤を1年間変更しない病医院では、処方料を減算することに決定しました。
 ただし、薬剤講習を受けた医師は、それを免除されることになっています。

 この対処は、内科を中心とする一般科への対処としての第1弾と考えられます。今後、順次、厳しくしていくのではないかと想定しています。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬について

 ベンゾジアゼピン系睡眠薬が危険だからと、薬剤の分類上で、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を処方されている医師がいます。

 自分は、強い薬が嫌いだからと、そういった分類の薬を多用されている医師がいます。

 その中で、代表的な薬剤が、「マイスリー、薬剤名:ゾルピデム」です。
 この薬は超短時間型作用の薬で入眠の手助けをするため、好まれている患者さんが多くおられます。

 その一方、短期間で依存して、効果がなくなる、中途覚醒して朝まで眠れない、悪夢をみる、ふらつきがみられるなどの副作用があります。

 マイスリー(ゾルピデム)という薬は、うつ病、躁うつ病、統合失調症には、保険適応がないということを知らない医師も多く存在します。

 マイスリーはベンゾジアゼピン系ではなく、軽い薬だと誤認して、投与している医師がいますが、大きな間違いです。

 マイスリーは、直接ベンゾジアゼピン系受容体を占拠しないため、非ベンゾジアゼピン系に分類されていますが、別の経路から、結経、ベンゾジアゼピン系と同様にGABA受容体を占拠することで、沈静をかけます。
 ですから、分類が異なるだけで、結果は、同じなのです。

※参照:ストール精神薬理学エッセンシャルズ

 内科系、あるいは、総合病院では、デパスやマイスリー、あるいは、ハルシオンといった、依存性の高い薬を在庫としておいていることが多く、比較的、安易に処方されています。

 こうした薬が効かなくなって、当院に来院される方が多くおられます。そして、そういう方の薬剤調整は、未治療の方より難渋します。

 ちょっと眠れない、あるいは、不安症の方に、こういった薬剤を気軽に処方することは控えてほしいことです。

ベンゾジアゼピン系の薬剤と犯罪について

 病院で処方されているベンゾジアゼピン系の薬剤では物足りない方がおられます。睡眠が十分とれないとか、不安が解消されないと思う方が多くおられます。
 ただ、ベンゾジアゼピン系の薬剤に依存させないため、あるいは、保険診療で行う限界に到達した場合、それ以上の薬剤投与をお勧めしない、あるいはお断りしております。

 その場合、大半の患者さんは、我慢をされますが、中に闇市で買う方がいます。

 また、その反対に自分はさほど必要ないけれど、病院で処方を受けて余った薬を販売して利益を得る人もいます(当然、違法です)。
 生活保護の方は、医療費が無料なので、ほんのごく一部ですが、そうした犯罪行為に加担する者が存在することが確認されています。

 さらに、睡眠薬をお酒と一緒に服用すると、効果が増幅して、意識を失う、動けなくなるなどの状態に陥ることを知りながら、薬を悪用する輩もいます。
 フルニトラゼパムという薬は、口に入れると、さっと解けて、吸収もよく、効果が強いため、お酒に混ぜて服用させるケースがありました。

 お酒だけでも判断力が鈍る上、無色透明の強い薬を数錠追加すると、効果はてきめんにでます。
 その効果を利用して、女性にわいせつな行為をはたらいたり、金品を盗んだりするという行為を行うことができました。

 それに対して、いくらかの対策がなされています。
 薬のコーティングが丈夫になって、水に溶けにくくなっています。
 また、飲料に溶けた場合は、青色の色素が出て、見分けがつきやすくなっています。

 残念なことに、睡眠薬がこういう犯罪系に使われることがあるのです。
 ある程度の処方制限や厳格化も仕方がないことと思われます。