先輩の大町さんと、メッセージのやり取りで、本の紹介をしました。
参考になればと思い書きました。
架空の人物とのやりとりを楽しんでいただけたら、さいわいです。
小説もフィクション(架空の物語)ですので、この話の中で知らなかった真実を見つけていただけたら、うれしいです。
最後に、紹介本の画像とリンクをつけています。
気になる本があれば、クリックしてください。
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登場人物紹介
講師
一文字浩介
地方の準難関大学卒であるが、なぜか帝国大学の講師をしている
心理学者の若手
興味は豊富で、多彩な知識を持つが、まだ何も大成していない
学術とは変わった認識を持つ
言葉使いは、ていねいだが、少し変わり者
先輩
大町豊
同じ大学で他学部の一文字が尊敬する先輩
同じ趣味があるため、仲良くなった
仕事により、しばらく音信不通になっていたが、SNSで通信が復活した
有能であるが、自分の限界も感じている
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大町
最近読んでみたい本がなくて…
何かお薦めある?
テーマがユニークなのもいいけど、文章が美しいってのでもいい!
一文字
今回は,美しい文章で勝手に選びました。
美しいだけでなく、内容もおもしろいです(伊勢物語だけは、好みによります)
もうすでに読んでいるものもあるかもしれません。
1 山月記(名人伝も含む)
2 伊勢物語(原文が掲載されているもの)
3 風林火山(井上靖)
4 恩讐の彼方に(菊池寛)
5 舞姫(森鴎外)
以上の本は、音声(朗読)で聞いても価値があります。
面白い本では、
6 自分の中に毒を持て(岡本太郎)
7 聖の青春(大崎善生)、羽生善治時代の影に隠れていた傑物の悲運の物語
この2つは、20年以上前に読みましたが、今でも売れているようです。
大町
村山聖だよね!
ありがと〜!
まずは第五候補までのどれかにしてみる!
(少しして)
山月記読んだ!
Kindle無料版があった!
昭和44年出版だったかな?
この当時でもこういう文体(文語じゃないけど現代調でもない)なんだ!
でも私はこの格調高い文体は好みなので一気に読めたよ。吉川英治や司馬遼太郎を読んでたからかな?
この山月記もどこかで読んでるね。教科書かも。
文意は人並み以上に読み取れるけど、虎に変わると言う事が単純にSFチックと捉えてしまう。
人間の心の奥底に潜む虎に覆い尽くされるって事までの理解が苦手だったんだね。(今でもだけど)
あーでも格調高い文学を読むのもいいね
推薦本見繕ってくれてありがと〜
一文字
山月記の格調の高さはすごいと思います。
参考として、冒頭からの一部を以下に掲載します。
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隴西(ろうさい)の李徴(りちょう)は博学才穎(さいえい)、天宝の末年、若くして名を虎榜(こぼう)に連ね、ついで江南尉(こうなんい)に補せられたが、性、狷介(けんかい)、自(みずか)ら恃(たの)むところ頗(すこぶ)る厚く、賤吏(せんり)に甘んずるを潔(いさぎよ)しとしなかった。いくばくもなく官を退いた後は、故山(こざん)、に帰臥(きが)し、人と交(まじわり)を絶って、ひたすら詩作に耽(ふけ)った。下吏となって長く膝(ひざ)を俗悪な大官の前に屈するよりは、詩家としての名を死後百年に遺(のこ)そうとしたのである。しかし、文名は容易に揚らず、生活は日を逐(お)うて苦しくなる。李徴は漸(ようや)く焦躁(しょうそう)に駆られて来た。この頃(ころ)からその容貌(ようぼう)も峭刻(しょうこく)となり、肉落ち骨秀(ひい)で、眼光のみ徒(いたず)らに炯々(けいけい)として、曾(かつ)て進士に登第(とうだい)した頃の豊頬(ほうきょう)の美少年の俤(おもかげ)は、何処(どこ)に求めようもない。数年の後、貧窮に堪(た)えず、妻子の衣食のために遂(つい)に節を屈して、再び東へ赴き、一地方官吏の職を奉ずることになった。一方、これは、己(おのれ)の詩業に半ば絶望したためでもある。曾ての同輩は既に遥(はる)か高位に進み、彼が昔、鈍物として歯牙(しが)にもかけなかったその連中の下命を拝さねばならぬことが、往年の儁才(しゅんさい)李徴の自尊心を如何(いか)に傷(きずつ)けたかは、想像に難(かた)くない。彼は怏々(おうおう)として楽しまず、狂悖(きょうはい)の性は愈々(いよいよ)抑え難(がた)くなった。一年の後、公用で旅に出、汝水(じょすい)のほとりに宿った時、遂に発狂した。或(ある)夜半、急に顔色を変えて寝床から起上ると、何か訳の分らぬことを叫びつつそのまま下にとび下りて、闇(やみ)の中へ駈出(かけだ)した。彼は二度と戻(もど)って来なかった。附近の山野を捜索しても、何の手掛りもない。その後李徴がどうなったかを知る者は、誰(だれ)もなかった。
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この文章は、知り合いの小学校1年生のお子さんと一緒に暗唱しました。
小学生は、意味が分からなくても覚えてしまうものです。
後に解説してあげたらいい。
江戸時代にあった寺子屋の教科書は、大人が読んでも難解な文章が多数とりあげられていました。
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舞姫は、ぼくが中学生時代、NHKの高校通信ラジオ講座で聞きました。テキストはありませんが、美しい朗読と講師の解説により、物語がリアルに見えるように感じました。
後に成人して同じ文章を読んでみたら、意外に難しくて驚きました。
不思議なようですが、そういうものかもしれません。
今回は、流行り物を避けて、一部でも暗唱する価値のある本を選別しました。
今、読まなくても何年か後に読んでも損をしない文章だと思います。
大町
山月記で李徴が「事実は、才能の不足を暴露するかもしれないとの卑怯な危惧と、労苦を厭う怠惰とが己の凡てだった」と言ってたけれど、その洞察、自己分析は凄いと思う。
このダメな自分を認める事が出来るか否かが分岐点になると思っている。
私は足りない自分を認めることと、人の良い所を認めてそれを真似したり、口に出して伝える事が自分の長所と自覚してるし、自分自身の好きな所。
誰でも褒められたいからね〜
私はそのプチ幸せをみんなに届ける事が好きなんだよ!
でも嘘は言えなくて、ホントにいいと感じた事を、表情豊かに口にしてるだけ!
一文字
さすが!こういうことが自然にできる人は、存外少ないのです。
自然に、そのいい少数派になっているところが、見習うところです。
李徴の「事実は、才能の不足を暴露するかもしれないとの卑怯な危惧と、労苦を厭う怠惰とが己の凡てだった」は、久しぶりに読んで、自分のことだと思いました。
試みた論文もうまくいきませんでした。
李徴のような分析はできていると思うのですが、大町さんのように自然に褒めることができるようになるのが、これからの課題です。
私の知り合いの方は、子どもに「パパには才覚がなかったし、努力も足りなかったから成功できなかったんだよ」と言ったそうです。
ぼくも将来、そう言えるかな?
…学生には、「まずは、先生が結婚してからね」と言われそう。
大町
私は、「お父さんはダメダメだからね〜」って言ってるよ!
でもダメな点を認めつつも、いい点もあるって自負が自分を支えてるから言えるセリフでもあるよね。
もしその自負が無かったら、できない自分を認めたくはないだろうし、言い訳したくなるのもわかるね。
私は40歳を超えてから子どもと仲良しになったんだよ。
管理職としての力がない自分を認めてからだね。
それまでは出来ない言い訳や愚痴は、自分にも他人にも許さない人間だったから、いい時は話できても悪い時は話したくないよね。
我が子がいみじくも言ったのは「お父さんは管理職やってへなちょこになったから話ができるようになったよ!それまではお父さんの話は正しいかもしれないけど聞きたくはなかった!」って!
コレが人間というものだと理解したよ。
人は正しい回答を求めて話をするのではなく,悩んでいるって事を聞いてくれて、わかって欲しいだけなんだと。
一文字
できなくて、力が抜けたのがよかったのかもしれませんね。悟りの前には、解脱があるってことかも。
正しいということに関しては、自分にはアレルギーがあります。
正しさを強固に主張する人は、人を傷つける。
正義は、人につきつける剣。
いつの時代でも、戦争を行っている国は、自国が正義だと主張しています。
大町
昔はどっちが正しいかって思考回路だったけど,今は正しさを主張する人は正しくないと結論づけている。
中島みゆきも「Nobody Is Right」って曲で歌にしてくれてるしね!
引用:中島みゆき公式チャンネル
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早く読み終えることができる小説は、「恩讐の彼方に」です。短編〜中編小説となります。
内容濃いです。感動します(ぼくはしました)。
音声で聞くのがよいのは、美しい文章、内容の濃い文章、何度も読んだ方がいい本が相当すると思います。情報をとるだけなら、速読で、さっと読んでしまった方がいい。
○○の本を朗読で聴くのは、どうかなと思います。
○○のYouTubeもたまに観ますが、1.75倍で聴いています。そして、しばしば途中止めします。
車通勤で価値あるオーディオ教材を聴くのは、仕事術や教養をつけたいアメリカ人がよく使っている方法です。通勤時間をムダにしないということです。スキルを上げたいホワイトカラー向けの手法でしょう。
ちなみに、アマゾンのプロが朗読するというオーディブルは、苦戦しているようです。
私が有料で買っている動画も、活字ですばやく読みたいと思うことが多いです。
情報ですから。
大町
「恩讐の彼方に」を半分以上読んだけど、こういう心持ちで年単位で事に当たるのは普通の人間には不可能だから、苦しみを乗り越える為には、逃れの道も必要だと思う。
聖書の中にも殺人とか罪を犯した人が罰せられる事のない逃れの町ってのが定めてあるくらいだからね。
あーでも「恩讐の彼方に」は面白いし文章も良いね!こういう文が自分に馴染んだとしたら、それだけで周りから一目置かれるような、品格を身につける事になると思う。
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舞姫を読んでみたけど、原文は読解不能だったね…😭
通信講座ではこれが理解できたんだ!(surprise)
でも、私に取っては内容がつまらなかったね…立身出世の男のエゴで1人の身重の女を狂わせるという結末に…コレがなぜ教科書や通信講座で取り上げられるのか、理解できない。
一文字
舞姫は、当時では珍しい、欧文調で書かれた作品です。
文語でもなく、現代語でもない、品格のある作品です。
内容については、好みによりますが、人間の弱さを露呈している作品だと考えています。
これまで話題に上がっていませんが、風林火山は、純文学でありながら、こんなに面白い小説があってもいいのだろうかという論評もあります。
武田信玄に仕える軍師、山本勘助が主人公です。
妹は、姫が亡くなった時の勘助の心情の描写表現が秀逸だという感想を述べています。
現代文ですので、きれいな文章ながら、読みやすいと思います。
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最初に紹介した作品は、
1〜5は、文章が美しい作品、格調が高い作品と思ってください。
伊勢物語は、ただの恋愛小説です。
でも、歌がいいのです。
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ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれないに 水くくるとは
月やあらぬ 春や昔の春ならぬ わが身ひとつはもとの身にして
君来ぬと 言いし夜ごとに過ぎぬれば 頼まぬものの 恋いつつぞふる
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最初の歌は、百人一首にも取り上げられている有名な歌
2つ目は、哀愁を秘めた何とも言えない思いを歌った歌
3番目は、叶わぬ恋と知りつつも諦めきれない自分を受け入れようとしている切ない歌
短歌を味わうことが主体の文学ですので、興味のあるなしで異なります。
ぼくは、有名な歌より、2番目と3番目の歌が好きです。
これは、趣向であり、俳句とともに内容がどうとは、カテゴリーが異なるものです。
俳句にもいい句もあれば、なんだこれ!というのもあります。
同人誌に、「ビールにはうましウインナーソーセージ」という句が掲載されているのを見た時、「俳句は滅びるな」という印象を覚えました。
一方、「菜の花や 月は東に 日は西に」という与謝野蕪村の句の論理的背景を知ると、驚くと思います。詠まれた場所と時期まで想定されています。
こういう句は論理と情調を味わうことができます。
(※1つ前のブログで紹介しています)
「菜の花や」の風景描写 🔙クリックですぐに見ることができます
内容と情緒表現は別物だと思ってください。
情緒表現が好きかどうかは個人の問題です。
内容が重要ですが、表現の仕方はコミュニケーションにつながるため、絶滅すると伝える能力が落ちます。
知り合いの国語の先生から聞いたことがあります。
山月記のような特殊文学は、今後教科書に取り上げられることが少なくなっていく予定であると。
表現の能力が落ちると、国語力、すなわち、国力も低下します。
俳句や短歌のような遊びの分野がなくなると、余裕がなくなるのです。
大町
確かに短歌を理解できるのは品が良いね。
恋歌には興味なかったけど、
伊勢物語も読んでみようかな…
一文字
楽しめる範囲でやっていただけたらよいと思います。
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書籍紹介
山月記
伊勢物語
風林火山
恩讐の彼方に
舞姫
自分の中に毒を持て
聖の青春
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活版印刷ができて以来、「本を読む」ということは、最も安価で有用なコストパフォーマンスが高い勉強法だと思っています。
私自身は、婚姻状態にあり、20歳過ぎの子どもがいます。
今日もフィクション話を読んで下さり、ありがとうございます!