都会でも集中化がみられる救急医療。
一度に複数の患者さんが救急搬送されると、同時に診ることができません。
過疎化地域では、複数の救急車がきた場合でも、他に受け入れ先の病院がないため、重症度を判断しながら、順次、検査や処置を行っていきます。
4時間の間に7台の救急車が来た時は、さすがに困りましたね。
普通なら、すぐにでも診てあげたい高齢の女性を後回しにしなければなりませんでした。
数時間で亡くなることは、ほぼないと判断したためです。
その代わりに、「今、生きるか死ぬか」という患者さんを優先させていただきました。
結果的に、その切迫した患者さんを助けることはできなかったのですが、病院に搬送された時点で、息をしていませんでしたから、DOA(dead on arrival)だったのでしょう。
平たく言えば、病院に到着した時には、すでに死亡されていた可能性が高いのです。
それでも、心肺蘇生によって甦ることがあるため、裏当直の麻酔科の先生をコールして、気管挿管、新マッサージ、心臓へのカテコールアミンの注射を行いました。
でも、やはりダメでした。
こういうケースで生き返る率はとても低いですね。
呼吸が停止していた時間が、病院に到着した10分以上前だと、ほぼ蘇生不能です。
運よく蘇生しても、低酸素脳症で、廃人同様になっているかもしれません。
「ジェネラル・ルージュの凱旋」という映画で、救急医療が扱われました。
ラストに近い場面では、大事故が発生して、一度に多数の救急患者を受け入れざるを得ない緊急事態が発生します。
それでも、訪れる患者をすべて断らないで、「診る」ことに焦点があてられました。
そのためには、来た順に診察や処置をするのではなく、優先度を決めていく場面が出てきます。
私の記憶イメージと作品で使われた色合いは異なるかもしれませんが、内容は同じです。
1 今にも亡くなりそうで、最も緊急性の高い人に「赤色」の札をつける。
2 重症ではあるが、いくらか処置が送れても命に異常がないと判断される人には「黄色」の札をつける。
3 ケガや症状が軽く、緊急度が下がる人に「青色」の札をつける。
全部で4つに分類して、該当する色の札をつけて、処置する優先度を決定します。
優先順位は、番号の通りに行います。
1番目 赤のタグ
2番目 黄色のタグ
3番目 青色のタグ
という順序で処置を行います。
おっと、4つの内の1つを記載していませんでした。
最後の札は、「黒色」です。
これは、すでに亡くなられていることが確実な人につけるタグです。
映画の中で、黒色のタグをつけられた男性の妻が、
「なんで、この人を早く診てくれないんですか!」
と泣きながら、繰り返し叫ぶシーンがありました。
心情的に、十分お察しします。
患者さんがその人だけであれば、最後の緊急処置を施していたことでしょう。
しかし、すでに死亡されている方に時間を割くことは、他に助かる可能性のある命をおとすことにつながります。
人の尊厳という意味では、ないがしろにしたことになり、その方には申し訳ないことですが、非常事態では、助かる命を助けたいのです。
私が短時間で7人来た当直の時には、札はつけませんでしたが、判断は概ね、同じでした。
ただし、もっと非常事だと、DOAの方は、心臓と呼吸が確実に止まっていることを確認した後は、処置をしなかったかもしれません。
ある医学部の面接試験で、次のような問題が出てきました。
ある日、自分しか医師がいない時間帯に、同時に3人の患者さんが救急で運ばれてきました。
1人は、やせて貧相で、お金がないように見える人でした。
1人は、太っていて、金持ちそうな人でした。
1人は、小さな子どもでした。
「あなたは、どの人から、診察を始めますか?」
という質問です。
ちょっと意地悪な問題かなという気もします。
印象とは異なる発想をしないといけません。
さて、これを読んでいるあなたは、どの人から診るでしょうか?
もう分かりますね。
映画のルールと同じです。
赤いタグをつけると判断した人から診ます。