2023年1月22日
地方に精神科医が足りなくなった理由

Yahoo!ニュースに出ていました。

北海道 釧路地域の精神科「異常事態」
新患外来は、最大半年待ち 出典:北海道新聞、Yahoo!JAPAN

新患は半年待ち 👈クリック
出典:拓北・あいの里地区社会福祉協議会

このところ、愛媛県で起こっている事態と似ているとは思いませんか?
過疎地域では、さらに深刻化する可能性があります。

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これから、頭に浮かんだ作り話を、3人で繰り広げられる大学のゼミ形式の会話で語ります。
個性的な人物を配置していますので、「えっ?」という会話の展開にもしばしば出くわします。それも含めて楽しみながら、知的感性を高めていかれたら、うれしく思います。

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登場人物紹介

講師
一文字浩介

地方の準難関大学卒であるが、なぜか帝国大学の講師をしている
心理学者の若手

興味は豊富で、多彩な知識を持つが、まだ何も大成していない
学術とは変わった認識を持つ
言葉使いは、ていねいだが、少し変わり者

生徒1
橘涼香

元、理系女子
宇宙など、壮大なものにあこがれる
宇宙物理学科を目指し、大学受験では合格できるレベルにあったものの、研究に残ることができる者は、ごく一部の天才だけと知り、人文科学を専攻する
気丈な性格といえる

生徒2
円山由貴子

文系女子
ふくよかで、穏やかな才女
彼女の優秀さは、時にかいまみられる
感性豊かな性格

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橘:先生、どうして、こんな異常事態が起こっているのですか?
一文字:それが本日のテーマです。事実と流れをみていきましょう。

円山:地方の過疎化と関係しているのかしら?

一文字:いいところに気づきましたね。それは、大いに関係があります。
橘:それが主な原因ですか?それとも、他に大きな要因があるということですか?

一文字:そうです。それとともに、もう1つ大きな問題があります。
円山:そうでしたか。私には、思い浮かびません。
橘:先生、それは、一体、何ですか!

一文字:橘君は、スパッと攻めてきますね。リケジョの習性ですか。
橘:いらないことを言わないで下さい。
一文字:…あ、ごめんなさい。では、一言で答えます。
橘:……
円山:……

一文字:新医師の研修医制度が始まってから起こった問題です。

円山:新医師の研修医制度って、かなり昔からある話ではないですか?
一文字:医師法が改正されて、新医師臨床研修制度が創設されたのは、平成16年4月からです。

研修医制度 👈クリック

橘:20年近く前のことですね。
一文字:君たち、ミレミアム世代の人には、当たり前の制度となっているでしょう。
円山:そんな20年も前のできごとが、今、どのように関係しているのでしょうか?

一文字:研修医制度の導入がもたらした産物は、初期の急性の変化と現在のようなジワジワと緩徐で慢性的に、いわゆるボディブローのようにダメージを与える変化があります。

円山:日本の人口動態が与える影響のようなものですか?
橘:少子高齢化で、生産労働人口が減る一方、援助しなければならない高齢者が増えました。その結果、社会保障費を捻出できなくなった政府が、ジワジワ年金を減らすとともに増税を行っています。

一文字:君達、詳しいね。働いていない若い人が知ってくれるのはいいことです。日本では、給料が天引きされているので分かりにくくなっています。みんなが確定申告をしたら、もっとリアルに感じる人が増えてくるはずです。

橘:では、先生。話を戻して、医師研修医制度の影響を教えてください。
一文字:はい。それを知るためには、研修医制度前のことを知る必要があります。

円山:そうですね。歴史の転換点では、前後関係の事実を確認して、その経緯を推察しなければなりません。
一文字:はい。やはり君たちは優秀ですね。医師研修医制度は、歴史の転換点ほど強烈なものではありませんが、医療界全体と一部の過疎地域医療に対して、大きな影響を及ぼしました。

一文字:では、友人の医師から聞いた話をいたしましょう。
その医師は、いわゆる一般に行われている就職活動をしたことがないと言っていました。

橘:えっ?就職活動をしなくて、就職できるのですか?一文字先生は、就職するのにかなり苦労したと思われるのに。

一文字:厳しい指摘をしますね。
ただ、友人の医師の話は、本当なのです。

他大学から医師が集まる力のある大学の医局には、吸引力があったのです。政治の世界でも「数は力」という法則があります。医局に属する医師の数が多ければ、派遣できる医師をより多く確保することができます。
円山:その結果、どうなったのですか?
一文字:他県を越えて、大きな病院の主要ポストを力のある大学がおさえることができました。これを業界用語で、「ジッツ」と呼びます。

ジッツ  👈クリック
出典:Wikipedia

橘:うーん。イメージがわかない。

一文字:そうでしょうね。分かりやすい例を挙げます。
中四国地方には、旧帝国大学がありません。

岡山大学は、医学校が最初に新設されました。1922年(大正11年)のことです。藩医学館の設立は、1870年(明治3年)にさかのぼります。
広島医学専門学校が開校したのは、1945年(昭和20年)です。

文化庁  👈クリック
出典:文化庁

広島大学医学部沿革  👈クリック
出典:広島大学HP

さらにみていくと、徳島に医学専門学校が設立されたのは、1943年(昭和18年)
歴史が古いため、県民あたりの医師数が多い。
徳島大学医学部沿革  👈クリック

愛媛に医科大学ができたのが、1969年(昭和44年)
愛媛大学医学部沿革  👈クリック

香川医科大学は、1978年(昭和53年)
香川医科大学 沿革  👈クリック

これらから、医師の流れは、どのようになっていったと推測しますか?

橘:自然な流れとして、歴史的に古い学校から医師が広がっていくはずです。まず、地元の病院をおさえ、次いで余剰人員を他県に回します。
後にできた大学は、地元の隙間を埋めながら、徐々に展開していくでしょう。

一文字:うん。やはり、橘君は頭がいいですね。

昭和の後期にできた新設医大は、就職先があまりないことに加え、僻地勤務を覚悟しないといけませんから、歴史が古くて派遣先の多い大学に入局することが多くなりました。

円山:そうでしたか。ところで、それが地域医療とどう関係しているのですか?

一文字:大学の医局の権力の強弱と関係しています。

大学の医局人事は、教授の采配によって決まります。

「○○君、今度、△県の□病院に赴任してくれないかな?」と教授が医局員に問いかけます。言い方は、問いかけですが、実質は強制です

医局人事の力が大きく、教授に嫌われると、その先の未来がないため、提案に応じざるを得なかったのです。
異動は、変わる3日前に告げられることもありました。転勤する医局員にとって、急ぎの大騒動です。

就職は、絶対内定で、就職前の面接はありません。
就職した後に形式的な院長との面接が行われます。
病院は、派遣された医者がよほどの問題を起こさない限り、医局に文句を言いません。都合よく代替医師を派遣してくれることが見込めないからです。2〜3年経って配置換えしてくれるのを待ちます。

一方、学生は入局する前は、歓待を受けていました。そして、よほど嫌われていなければ、自分が希望する科の医局に所属することができました。

派遣先が多い力のある大学に入学すると、卒業を控えた6年生時に各科で入局説明会が開かれます。
その説明会は、かしこまった説明会ではなく、アルコールも伴う飲食交流会で、学生に対して、その場にいる医師が対応して勧誘します。
説明会は、たくさんありますから、飲み食いが目的で参加する生徒もいます。それをこころよく思わぬ医局も、生徒の意思をくみとれないため、数多く集めて誘いをかけました。

学生の中には、自己紹介で、「今日は、しっかり飲み食いしたいです」という露骨な発言をする人もいました。学生が焼肉を希望するため、焼き肉屋で説明会が開かれることもありました。
誘う医師は、歓迎会が終わった遅い時間に病棟を訪れることも多いのですが、焼肉は服に匂いがつくからちょっと困るという話がありました。今は、焼き肉屋の煙問題は、ずいぶん解消されましたが。

橘:えー、そんなことがあったのですか!
一文字:ええ。「今は昔」という風体ですが…
円山:今昔物語集みたいな話ですね。

一文字:ところが、入局後は、教授の命令に逆らえない仕組みになっていました。医局人事から外されると、冷や飯を食わされる世界だったのです。

橘:えー、そうだったのですか!私は、そんな制度はぶっ壊したいです!
円山:入局する前は天国、入局後は地獄ですね。
一文字:そうなのです。だから、厚生労働省は、医局制度を破壊しました

円山:どのようにして、破壊したのでしょうか?

一文字:新医師研修医制度の導入です。

これまで、入局した新人医師は、大学病院から、まともに生活できる給料をもらえませんでした。
ある医師の話では、大学からもらう給料より、パチスロで稼ぐ額の方が多かったと言っていました。

だから、新医師は、他の病院にアルバイトに行きました。そうすると、休日がなくなるとともに看過できない労働問題が起こりました。
救急のある当直では、ほとんど眠れません。
日勤をして当直。そして、そのまま翌日の日勤がやってきます。36時間勤務は当たり前です。
そのため、睡眠時間の不足による判断力の低下で医療ミスが起きているということが課題となりました。

円山:労働者の権利と医療の安全を守る目的ですね。
一文字:そういうことです。だから、制度改革に向けたメスが入ったのです。

橘:それで、どうなったのですか?

一文字:卒業生が、大学病院の医局にかかわらず、全国どこの病院で研修を受けてもよいということになりました。他方、受け入れ側も希望する研修医を受け入れるかどうかというマッチングが起こりました。

円山:その結果、どうなったのでしょうか?
一文字:どうなったと思います?
橘:あ、オウム返しの質問。
一文字:では、橘君、推論してください。

橘:医局制度にしばられなくなった新人医師は、都市部に働き口を求めることが多くなったのではないかと思います。

一文字:正解です!地方は、利便性がよくないだけでありません。
専門書を買える書店もほとんどありません。
食事がおいしい店も少ししかありません。

さらに切実な問題は、子どもの教育問題です。近隣には、レベルの高い塾も進学校もあまりないため、受験で不利になります。

橘:では、研修医制度の後は、医師の流動化にともなって、地方を避ける傾向が高まったということですか?
一文字:実際、その通りになりました。

大学に入る難易度も変わりました。
言いにくい話ではありますが、40年前、大阪市立大学および横浜市立大学の医学部は、かなり入りやすい大学だったのです。
今は、都市部にあるという理由で、入学偏差値が高くなっています。
同じように、近隣の岡山大学医学部と広島大学医学部では、岡山大学医学部の方を選ぶ人が多かったのですが、今は、逆転現象が起きつつあります。

橘:えっ?そうだったのですか!
一文字:そうですよ。

それとともに、地方に赴任する研修医が激減しました。
その結果、今度は、中堅医師に過大な負荷がかかって耐えられない労働条件になりました。

その結果、たくさんの公立病院に医師の派遣が止まり、科によっては、休止あるいは閉鎖することになりました。

橘:えっ?なぜ、公立病院に派遣が止まるのですか? 論理的に分かりません。

一文字:そうでしょうね。
考えられる理由を2つ述べます。

1つ目の理由。

個人病院は、医師を派遣してもらいたいため、大学病院に研究費を寄付していました。大学病院は、診療以外に研究と教育を行う責務を担っています。
研究にはお金がかかるため、アメリカの大学教授は、研究費を集めることが一番大事な仕事だと言われることがあります。

円山:なるほど。

一文字:2つ目の理由。

個人病院に医師派遣を止めて、そこが倒産した場合、医局人事にかかわる教授と医局長は、末代まで祟(たた)られます

橘:いやー、恐い世界ですね。
円山:お金と人間関係の問題ですね。

一文字:つまり、研修医制度によって、医局の力は弱まり、医師の労働の自由化と流動化が起こりました
しかし、それは都市部に医療が偏在化するとともに、地方の医師不足となりました。

かつての医局人事が、僻地を除く地方に医師を派遣していたのです。

僻地医療は、学費等を貸与される自治医大が担っていました。

橘:なるほどね。医局人事が、医師を配分することで地方にも医師が充足されることになっていたのですね。

一文字:その強制力が崩れた結果、起こったのが、上記のニュースにでてきた問題です。

橘:ふーん。一応、理屈があるというわけね。
一文字:そうですよ。よい、わるいは別にして。
橘、円山:なるほど、理解できました。

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考察:地方医師の不足は、研修医制度と関連性がある
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フィクション物語にお付き合いくださり、ありがとうございます。