昔ながらの和食を食べているお年寄りに長生きが多いという話がある。
今は、「元気な高齢者は肉を食べている」という話題もある。
この説については、肉をとることによって、いくつもの栄養素を摂取できるからと解説されている。
肉を食べているから、元気なのか?
それとも、元気だから、肉を食べることができるのだろうか?
高齢でも歯が丈夫だから、肉が食べられるのが要因だとすると、笑い話の類い(落語のオチ)である。
私自身は、「肉を食べると元気になる」という安易な提言には疑問を持っている。
他の要素も加味して考えないといけない。
確かにフレイルという身体機能を予防するために、タンパク質をとることが大切である。
肉でも魚でもタンパク質を十分摂取できる人は、元気でいられる可能性が高い。
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幼いとき、目の前で鶏が首をはねられる場面をみて、それから肉を食べることができなくなった女性がおられる。
その女性は、魚や豆類を中心としたタンパク質をとっている。
それでも、高齢でけっこう、元気だ。
山の地や猟をする人は別として、ほとんどの都道府県が海に面している日本では、昭和より前の時代は、魚か肉かというと、魚の食事が中心だった。
江戸時代、海に近い江戸で、寿司ができあがり、文化に昇華した。
江戸前寿司は、江戸の海でとれる魚介類を出すことが基本となる。
注:江戸時代には、冷凍技術がなかったため、腐りやすいトロは、「猫またぎ」と言って、猫も食べないくらいで、食材として使うことができなかった。
文禄時代から、江戸のような都市部では、米を主食として食べることが多くなった。
地方の農民は、祝いの席でしか米を摂取できなかったのと対照的だ。
米酢に刺身を組み合わせた食材は、大ヒットして広がっていった。
上がり(お茶)は、飲むだけではなく、店を出る前に、上がりで手を洗って、暖簾をお手拭きに使っていた。
そのため、暖簾が汚れている寿司屋ほど繁盛していると一見して分かったという。
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さて、そういう魚を含む一汁三菜の料理をとっていた昔ながらの人は、現代人と比べて、「治療していないのに」長生きの人が多かったという統計がある。
1975年くらいに摂取していた日本食は、現代食を摂取している人と比較して、肥満の減少やコレステロールの値の改善がみられたという。
※ 参考文献
[1] 都築毅ら、日本栄養・食糧学会誌, 2008; 61: 255-264.
[2] Y. Kitano, T. Tsuduki, et al., J. Jpn. Soc. Nutr. Sci., 2014; 2: 73-85.
[3] 本間太郎,都築 毅ら,日本食品科学工学会誌. 2013; 60: 541-553.
[4] K. Yamamoto, T. Tsuduki, et al. Nutrition. 2016; 32: 122-128.
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宮沢賢治の「雨ニモマケズ」という有名な詩がある。
この詩では、「一日に玄米四合と味噌と少しの野菜を食べ」という記述がある。
発酵食品である味噌が入っていること。
玄米は、白米と比べ、食後に血糖値が上がるスピードが遅いこと
それに脂肪食が入っていないという要素もよいと考えられる。
ただ、宮沢賢治氏は、食べられる生き物に同情する気持ちを綴っている。「生き物の命をとるなら、おれは死んだほうがいい」とまで語っていた。
最後まで菜食主義を貫いたという。
※ Wikipediaより引用
彼の食生活は質素すぎて栄養素が足りなかったので短命だったのではなかったという説がある。
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さて、地中海食は、野菜や果物、全粒穀物、豆類、ナッツ類、オリーブオイルなどを中心とする料理となる。
この料理が、妊婦の糖尿病や体重増加の予防に有効であるとされている。
※ 英ロンドン大学クイーン・メアリーのShakila Thangaratinam氏らの研究
「PLOS Medicine」2019年7月23日オンライン版より
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肉や魚については言及していないが、穀物と豆類にタンパク質が豊富に含まれていること、体に必要なビタミンやミネラルをとりやすいこと、オリーブ油は、不飽和脂肪酸であることなどがよい点だと考えられる。
動物性脂肪酸や糖類は控えるという点にも言及している。
最近の健康食ブームは、食べ物を薬のように分解して、成分比較で論じているものが多い。
健康食は、あくまで総合的な食べ方であって、何か1つだけの要素で達成できるものではないと考えている。