2014年10月22日
入院している人が、無断で他院の外来に通院するとどういう影響がでますか?

病院に入院している人や家族には、他の病院を受診する時には、その旨を伝えてくださいと言われていると思います。

「えっ?そんなこと、言われてませんよ」という人は、忘れているか、聞き流している可能性が高いです。

では、私は(私の家族は)どうしたらいいのだろう?
と怒る人が出てくると思います。

糖尿病で内科に入院しているけど、そこには皮膚科がないので、かかりつけの医院に普段の薬をもらいに行くのに何が悪い?

もっともです。
かかりつけの皮膚科を受診されるのがよろしいでしょう。
ただし、入院している病院には、そのことを受診前に知らせてくださいね。

なぜ、こういうことにこだわるのか、説明します。

入院している人が、入院先と違う病院を受診すると、入院料の80%を減額される制度があるからです。
つまり、入院した病院が問答無用に損をさせられるのです。
その決まりを作ったのは、厚生労働省です。

だから、何なの?
えー、変な制度!

そう思われる方がおられて当然です。
実際、私も変な制度だと思います。

この制度の根源は、入院した1つの病院が入院患者についてのすべての病気について責任を持ちなさいという趣旨です。
入院先がすべて面倒をみなさいということですよ。
専門領域が異なっていても。

ずいぶん、ひどい扱いだと思いませんか?
病院では、すべて看れないなら、減算。
患者さんは、他の病医院にかかる権利を奪われる。

しかし、そういうことなのです、趣旨としては。

これは、ひどい制度ですね。
実際、怒りをあらわにした病院や診療所の署名を集め、医師会を通じて、制度の撤廃ないし、改正を求めました。

半年ほど経ってでしょうか。
制度に一部の変更がありました。
基本的に入院した病院がその患者のすべてを看るという趣旨に変わりはない。
しかし、その病院に専門科がなく、他に行かざるを得ない場合は、紹介状を書いて、所定の手続きを行えば、80%の減算は行わないという仕組みを追加したのです。

だから、必要がある場合は、入院先の病院に言ってもらうと、用意や算段を行い、スムーズに受診ができます。
しかし、言わないで受診すると、後で病院が大きな損失を被るのです。

これを読まれた後も、「だから、何なの?」と思われた方は、以下と同じようなことです。

・自分が過って、ある施設(図書館でも美術館でも何でもかまいません)のガラスを割ってしまった。でも、誰もみていないし、気づかれていないし、自分は損をしていないから構わない。

・ある施設(図書館でも美術館でも何でもかまいません)でトイレに行きたくなった。でも、場所が分からないし、すぐにしたいし、誰もいないようなので、手っ取り早く廊下に用を足した。

「でも、どうでもいいや」
と思われるなら、本当に残念です。

かかっている病院への不満もあるでしょうが、意味なく損をさせたり困らせたりすることはやめてほしいのです。

「医は算術なり」とよく悪口を言われます。

しかし、算術は大切です。
算術が成り立たないと病院はつぶれます。
職員への給料も払えません。
検査を行う機械も新しいものは買えません。

「医は仁術」かどうかは、分かりませんが、「忍術 = 耐えること」と思うことはあります。
算術とも関係したことですが、患者さんに懇願されて行った治療や薬が保険組合が認めなくて減算された。
よくあることです。
でも、病院は、そのことは患者さんには言わないのです。
これは、忍のひとことです。

地方の中核病院が縮小したり、潰れたりして、困っている人がいることを聞いたことのある方もおられると思います。
(東京の人には分からない話かもしれません)

・かかりつけの病院が近くにあったのが、何十キロも遠くの病院に通わなければいけなくなった。
・住んでいる場所や実家の近くには、手術の必要なお産に対応できる所がなく、受診先に困った。
・小児救急の受け入れ先がなくて困った。

これらは、人的資源の不足が一番大きな問題ですが、その遠因に厚生労働省あるいは政府が、算術を操作したという政策的な問題が潜んでいるのです。

最後に、ここでも1つ知ってほしいことがあります。
これまで、セカンドオピニオンは原則自費という話や通院費が安くなる制度は1つの病院でしか使えないという話をしました。
今回、出した話でも、入院している病院に同じ科がある場合は、認められません。

このように、転々といろいろな医療機関をはしご受診することを厚生労働省は、快く思っていないようで、そのように対策を練っていることを知っておいてください。