2023年11月20日
コロナ後のベルリンフィルハーモニー管弦楽団コンサート

ベルリンフィルハーモニー管弦楽団が来日しています。
今回の講演は、地方都市も含めて、10公演もあります。

経済的な考察と音楽的な考察を語ります。

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登場人物紹介

講師
一文字浩介

地方の準難関大学卒であるが、なぜか帝国大学の講師をしている
心理学者の若手

興味は豊富で、多彩な知識を持つが、まだ何も大成していない
学術とは変わった認識を持つ
言葉使いは、ていねいだが、少し変わり者

生徒1
橘涼香

元、理系女子
宇宙など、壮大なものにあこがれる
宇宙物理学科を目指し、大学受験では合格できるレベルにあったものの、研究に残ることができる者は、ごく一部の天才だけと知り、人文科学を専攻する
気丈な性格といえる

生徒2
円山由貴子

文系女子
ふくよかで、穏やかな才女
彼女の優秀さは、時にかいまみられる
感性豊かな性格

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一文字:ヘルベルト・フォン・カラヤンから、日本でも有名になったベルリンフィルハーモニー管弦楽団。
その後、クラウディオ・アバド、サイモン・ラトルと引き継がれてきました。
この度は、首席指揮者・芸術監督に就任したキリル・ペトレンコ指揮による演奏です。

橘:首席指揮者が変わったのですね。

一文字:そういうことです。

円山:その日本での初公演ということですね。

一文字:その通りです。

橘:今回のコンサートで以前とは異なる変化がみられましたか?

一文字:ありました。

橘:具体的には、どのような変化でしょうか?

一文字:公演数がかなり増えました。
57年ぶりに高松公演に加え、初の姫路公演も開催されます。

円山:これが何かに関係するのでしょうか?

一文字:はい。関係するのです。
これまで、ベルリンフィルハーモニー管弦楽団の日本公演は、概ね5公演までになっていました。3公演の時もありました。
それが、10公演に拡大したのです。

橘:それは、経済的な事情がありそうですね。
リケジョの感がそう囁きます。

一文字:ぼくも、そう思います。
コロナ前のベルリンフィルハーモニー管弦楽団のコンサートチケットの値段は、5万円を超えていたのです。
しかも、早期に完売。
ヤフーオークションで売り出されていました。

橘:今年は、どうなっているのですか?

一文字:S席のチケットは4万5千円となっています。
円安、ユーロ高にもかかわらず、チケット価格が下げられています。
ここに経済的な意味があります。

円山:今までのように、3〜5公演では、採算がとれないと判断して、価格を抑えて、チケット枚数を増やしたと考えると理に合います。

一文字:ぼくも同じ考えです。
現時点の日本経済は、給料は据え置きなのに、物価高、そして増税。
可処分所得が減ることは明確ですね。

ですから、そういった事情から、公演を増やして、価格を抑制したのだと考えます。

橘:その結果、どうなりましたか?

一文字:チケットの売れ残りが出ました。
これは、少なくとも30年間はなかったことです。
需要を供給が上回ったということですね。
市場原理として、そうなります。

※参考
【出演】
管弦楽: ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮: キリル・ペトレンコ

【日程・会場】
2023年
11/14(火) 19:00開演 レクザムホール(香川県県民ホール) (高松) ※プログラムA
11/16(木) 18:45開演 愛知県芸術劇場コンサートホール (名古屋) ※プログラムB
11/18(土) 14:00開演 アクリエひめじ (姫路) ※プログラムA
11/19(日) 14:00開演 フェスティバルホール (大阪) ※プログラムB
11/20(月) 19:00開演 サントリーホール (東京) ※プログラムB
11/21(火) 19:00開演 ミューザ川崎シンフォニーホール (川崎) ※プログラムA
11/23(木・祝) 14:00開演 サントリーホール (東京) ※プログラムB
11/24(金) 19:00開演 サントリーホール (東京) ※プログラムA
11/25(土) 14:00開演 サントリーホール (東京) ※プログラムB
11/26(日) 14:00開演 サントリーホール (東京) ※プログラムA

<プロフィール>
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
Berliner Philharmoniker
1882年に自主運営楽団として創立。ハンス・フォン・ビューロー、アルトゥール・ニキシュ、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、ヘルベルト・フォン・カラヤン、クラウディオ・アバド、サイモン・ラトルらが首席指揮者を歴任し、2019年キリル・ペトレンコが同職に就任。2009年に開始した「デジタル・コンサート・ホール」ではライブや収録演奏を世界中に配信しているほか、2014年には自主レーベル「ベルリン・フィル・レコーディングス」も創設。1967年にカラヤンが創設したイースター音楽祭は2013年にバーデン=バーデンに居を移し、オペラ公演を行っている。また、UNHCRをサポートし、音楽大使として難民支援にも取り組んでいる。

キリル・ペトレンコ(指揮)
Kirill Petrenko, conductor
2019年シーズンよりベルリン・フィル首席指揮者・芸術監督を務める。シベリアのオムスク出身。地元で音楽を学び始め、のちにウィーンで研鑽を積む。オペラ指揮者としてのキャリアはマイニンゲン歌劇場とベルリン・コーミッシェ・オーパーの時代に始まり、2013-20年バイエルン州立歌劇場音楽総監督を務めた。ウィーン、ロイヤル・オペラ、パリ、メトロポリタン、バイロイトなどの名歌劇場や、ウィーン・フィル、コンセルトヘボウ管、シカゴ響、イスラエル・フィルなど世界を率いるオーケストラに度々客演。ベルリン・フィルとは2006年のデビュー以来、同フィルの中核をなす古典派やロマン派、スーク、コルンゴルドなどの知られざる作品、ロシア音楽など様々なプログラムに力を入れている。

円山:プレミアムチケットのベルリンフィルでも行ったのですね。

一文字:そういうことです。
それと、ベルリンフィルは、一般人になじみのある曲を題目に選ぶことがほぼありません。
ウィーンフィルの方が、聴衆が聴いたことのある曲を選びます。

チケットの販売枚数の多さと選曲の難しさが売り残しに寄与したと考えます。

橘:うーん。
では、ベルリンフィルは、どうして、一般人になじみのない曲を選択するのでしょうか?

一文字:これは、私の勝手な想像です。
ベルリンフィルは、世界最高峰の管弦楽団です。
ですから、クラシック音楽を教える人とコアなファンを対象に売り出してきたという側面が関与しているでしょう。

円山:それが、この度は、十分に機能しなくなくなったということでしょうか?

一文字:そう考えると合点がいきます。
2時間の公演で、5万円のチケットを払う意志のある層がそこまでなかったということでしょう。
前述したように、今は不況気味ですから。

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橘:ところで、そんな高額なチケットを先生がゲットしているのは、私には不思議に思えて仕方がありません。

一文字:そうなのですね。
実は、その公演チケットは、私が購入したのではなくて、篤志からいただいたものなのです。

橘:えー、先生に寄付する人がいるなんて!

一文字:もっともなご意見です。
それが、本当にあったのです。
さらに、最高値のBOX席でした。

橘:なんと、不思議なパラダイス

一文字:その不可思議な観念が実際に起こったのです。
その理由の詳細は、明かしてはいけないことになっていますので、ご容赦ください。

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円山:では、それは追求しません。
私が知りたいのは、通常のS席と特別なボックス席とどのような違いがあったのか知りたいです。

一文字:通常の席では、横も縦も縮こまって座らなくてはいけません。
ボックス席では多少の余裕があるのです。

円山:どのくらい優遇されているのですか?

一文字:ボックス席というと、周囲を囲まれた広い席を思い起こすでしょう。
ところが、その席においてもボックスという仕切りはありませんでした。

円山:では、何が違うのですか?

一文字:隣の肘掛けが通常席の2倍あること、それから、前の通路も少しだけ広いように感じました。
その差は、10cmから15cmくらいでしょう。

橘:えー、それなら、ボックス席の意味はさほどはないですね。

一文字:座席の広さとしては、そうなのです。
しかし、ボックス席では、その前に通路をはさんでいることもあって、演奏席と同じ高さにあり、視覚も聴覚も遮るものがなかったのです。
さらに、高さと左右が指揮者とほぼ同じ位置にあることで、前列の圧迫感がなかったことがよかったです。

円山:値段の上乗せがある分、通常の席より聴きやすかったのですね。

一文字:はい。そうです。

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円山:ところで、演奏はどうでしたか?

一文字:よかったです。
前半は、ベルクによるモーツァルトの変奏曲でした。
途中、楽団員が倒れて演奏が一時中断しましたが、大きな波乱なく、進行しました。

後半の「英雄の生涯」は、録音だと面白くない部分が生演奏だと、興味深く拝聴することができました。

リヒャルト・シュトラウスは、きれいで整った旋律を作曲することができるにもかかわらず、3分過ぎには、難解な演奏に導くのです。
「ツゥラストラはかく語りき」という誰でも聴いたことのある旋律の後、解釈が難しい部分に突入することと同じです。

円山:なぜ、そのように持っていくのでしょうか?

一文字:ぼくには全く分かりません。
「ツゥラストラはかく語りき」の初演は、不評だったという話があります。

Musik Engel Media より

円山:そうなのですか。

一文字:整った美しい曲を作る才能があるにもかかわらず、わざわざ、難解にしています。
英雄の生涯も主題旋律が終わった後の解釈は難解です。
後半に、最初の主題が再現されて、心地よい場面があるのですが、そこでは終わりません。
こだわりが強かった人かもしれません。

円山:それで、全体の印象はどうでしたか?

一文字:繰り返しになりますが、生演奏はよかったです。
無音の個所がいつくかありましたが、それがうまく機能していました。
特に、最終場面で、音のない静寂な余韻にひたることができてとてもよかったです。

あの曲は、演奏レベルの高い管弦楽団でないと崩壊してしまうと感じました。

この度の演奏のお題目も、変奏曲だと思っています。
英雄の生涯は、変奏曲という場面がとても多いのです。

Bar MUSICA

橘:演奏には満足しましたか?

一文字:納得しました。

橘:ところで、チケットを譲った篤志は誰でしょう?

一文字:それは、言外してはいけないことになっています。
ご了承ください。

橘:もしかして、私の親?

一文字:…そうかもしれないし、そうでないかもしれません。お答えすることができません。

橘:ま、いいか。