ある晩、アイちゃんに異変が起こりました。
「パパ!アイちゃんがグッタリしている」
そう呼びかけられてかけつけみると、確かにアイには力はなく、身動きがとれずにいました。
私がかけつけたら、アイちゃんは顔をあげました。
「あ、アイの意識が戻った」
と少しだけ嫁の顔が明るくなりました。
アイちゃんの呼吸は微弱で、ちょうど前に飼っていたシーズ犬の最期を彷彿させました。
この呼吸は、瀕死の状態だと直感しました。
わずか2歳になったかどうかの幼いアイちゃん。
でも、小児期に特有の病気はあるのです。
「アイちゃんのお腹、えらく張っていない?」
そう言われると、お腹がパンパンに思えます。
「若い子に起こる悪性腫瘍がある。それは、若くて細胞の増殖が早いため、余計に早く進行する」
そういう考えが浮かび、若年性のスキルス癌(固くなる胃がん)や肉腫の可能性を想定しました。
お腹の張りも腹水がたまっているのかも……
もしかしたら、今宵が最期になるかもしれないアイちゃんとつきそいながら、落ち着かない夜をすごしました。
時に猫がやってくると、底力を振り絞って、猫を追い払っていました。
しかし、いつもの活力はなく、私が制止すると、すぐにクタッと崩れ落ちました。
その日の長い夜は、アイちゃんと一緒にベッドですごした時間もある一方、私がパソコンの操作をしている間に座している椅子の下で横になっていました。
どのような結末になるか分からない中、長い夜が終わりました。
アイちゃんの息は保たれています。
嫁は、アイちゃんを動物病院に連れて行きました。
そして、仕事が終わってから、病状説明と対処法を知りました。
まず、アイちゃんは呼吸器疾患をかかえており、本当に命が危うかったこと。
ミニチュア・シュナウザーは、トイプードルと同じように気管が弱い種ということでした。
レントゲン写真では、気道の狭窄が映し出されていました。
これが命を奪う一番の元凶であるため、これから一生、気管支拡張剤と心臓の薬を服用しなければならないと説明されました。
それに対して、お腹の張りと悪性腫瘍については、簡単に否定されました。
「この子は、ただのおデブさんです!」
激しい運動と暑さを避けてすごす必要があると教えられました。
人と違い、犬にそんな病気や器質があることは存じませんでした。
その後、アイちゃんは元気さを取り戻しています。
猫に敵対する姿勢は相変わらずですが、獣医さんの意に反して、散歩もできています。
危機が去った後、アイちゃんは、私たちの「子」として生活を送っています。