今回のゼミでは、心理学的な考えについて考えてみます。
人の生き方や考え方は、様々なものがあり、尊重したい。
もちろん、悪事や迷惑ごとはしないでほしい。
悩み多き子羊は存在しています。
そんな子羊が陥っているかもしれない罠(トラップ)について、フィクション物語をつづっていきます。
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登場人物紹介
講師
一文字浩介
地方の準難関大学卒であるが、なぜか帝国大学の講師をしている
心理学者の若手
興味は豊富で、多彩な知識を持つが、まだ何も大成していない
学術とは変わった認識を持つ
言葉使いは、ていねいだが、少し変わり者
生徒1
橘涼香
元、理系女子
宇宙など、壮大なものにあこがれる
宇宙物理学科を目指し、大学受験では合格できるレベルにあったものの、研究に残ることができる者は、ごく一部の天才だけと知り、人文科学を専攻する
気丈な性格といえる
生徒2
円山由貴子
文系女子
ふくよかで、穏やかな才女
彼女の優秀さは、時にかいまみられる
感性豊かな性格
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一文字:診療では、いろいろな悩みを打ち明けられます。
円山:具体的には、どのような相談が多いですか?
一文字:仕事のことと家庭のことが大半を占めます。
他に、近所の騒音霜害や匂い相談などもあります。
円山:どのくらい解決できるものですか?
一文字:それは、個々人の状況によって違いがあります。
配置換えが行われて、人間関係問題が解決されて、短期で改善するケースもあります。
一方、組織が硬直的で進展しないこともあります。
橘:その場合、どのような方策をとるのですか?
一文字:騒音や匂い問題については、解決策もあまりなく、難渋します。
騒音については、隣人の不可解な嫌がらせの場合もあります。
一方、家族のいびき問題もあります。
私が驚いたのは、色々な方法を試してみたけれど、よくならなかったため、精神的な治療とは無関係な音楽教室で使用される防音室を購入、設置してしのいだ方がおられることです。
社会とは隔絶されるけれど、そういう方法もあると納得しました。
円山:なるほど。物理的に遮断したわけですね。
一文字:そういうことです!
別の方の場合は、単純に引っ越しをすることで解決しました。
もちろん、金銭はかかりますが、大きな悩みがなくなりました。
引っ越し後は、相談することがなくなったから、何か知りたいことがあったら言って下さいと言いました。
少しのアドバイスをしましたが、問題が解決されたため、ほどなく診療も中止となりました。
橘:それでも、騒音問題は、至る所で起こっている問題です。
先生は、この問題で困ったことはありますか?
一文字:今のクリニックを開設した時、住居を新築のアパートに引っ越ししました。そこで、問題が起こりました。
円山:何の問題ですか?音の問題ですか?
一文字:そうです。通常は、管理人に知らせるのが通例の中、下の住民の方が、ご自分ではなく、ご家族を連れられて、ひどく責め立てたのです。
橘:それで、先生は、どのようにすごしたのですか?
一文字:なるべく音を立てないよう、スリッパもはかず、抜き足、差し足で歩いていました。毎日、とても気を遣っていました。
円山:それは窮屈ですね。
一文字:そうなのです。
それでも、2〜3ヶ月後、今度は、直接住まいになっている方が、早朝の音について苦情を申し立てられました。
橘:またですか?
先生は、音を立てていたのですか?
一文字:いえ、それが指摘されたその時刻はすっかり寝入っていて、音が出るような活動はしてなかったのです。
橘:それで、どのように対処したのでしょうか?
一文字:管理組合に連絡しました。
騒音問題で、濡れ衣を着せられている。一体、どうしたら、いいのでしょうか?
橘:管理組合は、どのように答えましたか?
一文字:管理組合の回答では、軽量鉄骨の建物では、直接上の住民でなくとも、他の部屋から響きが伝わることもある、という返答でした。
円山:では、やはり、先生は、本当はなき罪を責め立てられているというわけでしたか。
一文字:そういうことになるのでしょう。
橘:それで、先生が選んだ解決策は何だったのですか?
一文字:そういう世界から離れることでした。
橘:具体的には、どういうことですか?
一文字:素直に引っ越しして、自由を取り戻すことにしました。
円山:結局、そこに行きついたわけですね。
一文字:そういうことです!
引っ越し代は、30〜50万円必要になるけれど、オカルトではない、厄払いができるなら、その方がよいと考えたのです。
円山:それで、離れた場所に引っ越したというわけですか。
一文字:ええ。離れたと言っても、同じ管理組合が取り扱っている、隣の鉄骨鉄筋マンションに移りました。
引っ越し代は普通にかかりましたが、敷金を値引きしてくれました。
円山:それは、よかったですね。
橘:でも、そのように踏ん切ることができない人も多くいますね。
一文字:それは、そうでしょう。
まずは、引っ越し代を捻出できない人には、そういう選択肢はありません。
ですから、我慢して住むか、ケンカしてトラブルになります。
意地でも変わらないと挑む人もおられます。
円山:先生の場合は、他の人と何が違ったのでしょうか?
一文字:価値感の違いだと思います。
引っ越し代があったことはさいわいでした。
しかし、これも偶然ではありません。
いざという時に自分の裁量で使うことができるお金をストックしておいたのです。
橘:先生にしては、懸命な行動と備えですね。
円山:涼香ちゃん、口を慎みなさい!
ところで、先生の言われる、その価値感って、何ですか?
一文字:お金とこころに関する考え方です。
橘:具体的には?
一文字:人は、お金を稼ぐことより、使う時の方がその人の価値感と人生観を写しだします。
稼ぐことは手段ですが、使うことは、その人の欲望と関係します。
円山:なるほど、言われてみたら、そうですね。
仕事は給料が安くても好きなことをするのか、それとも嫌々ながら、高い給料の職業を選ぶのか。
これは、お金を手に入れる方法の問題ですね。
しかし、お金を使うとなると、こころの問題の方が、その人の価値感をより色濃く反映しますね。
一文字:そうなのですよ!
有名な金持ちの人では、お金を儲けることよりも使うことの方が難しいと、哲学的な発言をしている方がけっこうおられます。
橘:金持ちでない先生が言うのもどうでしょう?
一文字:その通り、おこがましい話ですね。
橘:あれ、素直に認めましたね。
一文字:ああ、ぼくは金持ちどころか、平均収入があるかどうかという属性ですから。
円山:でも、私は参考になりました。
一文字:今日の講義は、本来の議論にいきつけませんでした。
何回かに分けて、話し合いましょう。
円山:そうですね。
橘:ところで、講義の最後に教えて下さい。
金持ち思想として、先生は、
「一体、どのくらいお金があったらしあわせなのですか?」
抽象的な質問ですが、考えを持ち合わせていたら、教えてください。
一文字:はい。
大きく話題が変わりますが、今年の1月くらいにテレビ放送で、「ハウルの動く城」が放映されました。
ぼくはテレビを持っていないのですが、人づてに聞きました。
君たちは、知っていますか?
橘:私は観ました。
円山:私も鑑賞したことがあります。
一文字:では、質問します。
ハウルの動く城から、複数の部屋に行くことができました。
それに合わせてハウルはいくつもの名前を持っていました。
その名前を知っていますか?
橘:ジェイキンス
円山:ペンドラゴン
一文字:すばらしい!若い人は記憶力もいいですね。
ハウルは、部屋に合わせていくつもの名前を持っていました。
それに対して、ソフィーは訊ねます。
「ハウル、あなた、いくつ名前があったら気がすむの?」
橘:そういう場面がありました。
一文字:それに対して、ハウルは、どう答えましたか?
橘、円山:うーん、どうだったかな…
一文字:答は、「自由に生きていくのに必要なだけ」
これが、先の回答です。
出典:ジブリ
橘:これは、そういう意味合いなのですか?
いくらお金があったら、しあわせなのか?という質問に対してですか?
一文字:そうです。
お金の問題は、ハウルの答と同じく、「自由に生きていくのに必要なだけ」
ぼくが考えるお金とこころの世界観と一致しています。
橘:なるほど。先生にしては、まともな回答ですね。
円山:涼香ちゃん、失礼よ!
一文字:これは、お金に限らず、他のことにも通用する考え方かもしれません。
橘:今日は、いい話を聞くことができました、宮崎駿監督から。
一文字:ぼくは、信用されていないようですね。
次回は、別の引っ越しの話をします。
橘:えー、また引っ越し。
一文字:急がば回れです。
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自由に生きられるだけ、お金があればいいのかもしれない
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今日もフィクション話につきあってくださり、ありがとうございます。