2023年6月7日
俳句:「菜の花や 月や東に 日は西に」の風景描写の論理性


与謝蕪村が江戸時代に作ったと言われる有名な俳句

「菜の花や 月は東に 日は西に」

文字を読むと、いい句らしいが、どんなものかなと思ってしまう。
実際、この句の情景が描けるかどうかで、読み手の感想が大きく変わってくる。

私が、この句の存在を知ったのは、小学校の高学年。
有名な句だから、教科書にも載っていたかもしれない。
そして、塾の先生に景色のとらえ方を教えてもらった。

この句を味わうためには、基礎的な科学知識が必要となる。

◆ここで、出てくる月は、どのような月か?

実は、この問いが解けなければ、景色が見えてこない。

だから、この疑問から紐解いてみよう。
まず、この風景が読まれた時間帯はいつであるか?

これについては、「日は西に」が大まかな時間を解決する。
西日が見えるのは、「夕刻」と決まっている。

そして、次に、この夕刻に東に見える月がどのような月であるのかということだ。
月が見えるということは、新月ではないだろう。
それならば、三日月?半月?あるいは満月?

叙情的に解釈するならば、三日月という人もいるかもしれない。
しかし、事実は異なる。
これは、科学的に決まっていて、それは小学校の理科の時間で習っている(はず)。
夕刻に丸い西日が落ちる頃、東から登ってくるのは、まん丸いお月さん(満月)なのだ。
(ここでは、それ以上は説明しませんので、知りたい方は、本やネットで調べてください)

太陽と月の位置

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だから、西の空に夕日、東に満月が見え、その両端の地平線の間に広大な菜の花畑が広がっているというわけだ。
色からすると、菜の花の黄色がおびただしい数で埋め尽くされている。
そして、夕日のオレンジ色は、西からグラデーションがかかっている。
そして、東の端が暗くなるかと思えば、そこには満月の灯りがある。

そういう景色を想像できるだろうか?

菜の花の夕日

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そして、これは調べて知ったことであるが、蕪村がこの句を詠んだのが、1774年、神戸市の六甲山地。
この時期に菜の花が満開で、満月になるのは、4月20日から4月25日の間であっただろうと推定されている。

私は、この短い五・七・五に、かなり詳細な情報が隠れていることに驚きを覚える。

句の情感、美しさは、論理だけで形容できないこともあるが、それは音楽も同じことである。
今も演奏され続けている作曲家が作っている曲は、専門家に言わせると、非常に論理的だったり、トリッキーだったり、素養のある人にしか分からない意図を持っている。
NHKの「ららら♪クラシック」では、そうした、プロにしか分からない作為を一般人でも理解できるように解説してくれています。

素人でも気楽に作ることの俳句は魅力的だ。
一方、この句のように論理を考えていく作業もまたおもしろい。